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不定愁訴症候群

・不定愁訴症候群とは?
 ちょっと専門的な表現で恐縮ですが「不定で多彩な身体症状があるのに、それらの症状を説明できる身体的異常を認められない病態」を意味する概念なのです。 そして、心身症、自律神経失調症、抑うつ症、更年期障害、心臓神経症、慢性疲労症候群、神経性胃腸炎、パニック障害、全般性不安障害など様々な病名を医者から貰うことになるのです。 ちなみに、最近の精神科医は“身体表現性障害”とか“繊維筋痛症”がお好き? ちょっと乱暴かもしれませんが、これらを大きくひっくるめたものが不定愁訴症候群だと考えています。

・医者が一番嫌がる患者…
 症状は全身性かつ多愁訴で、肩こり、疲れ易い、どうき、息ぎれ、のどの異物感、胸の違和感、異常発汗、めまい、手足のだるさ、ふるえ、むくみ、頻尿、食欲不振、腹痛、下痢、吐き気など様々です。 以前小生が調査したときは一人平均24もの症状を持っておられました。 ところが、病医院に受診しても病気が見つからず、単に気のせいやストレスのせいにされることが多い。このため、次から次へと病医院を変える“はしご診療”(ドクターショッピング)をする人が多いのです。

・現状と問題点
 現代社会におけるストレスの増加に伴い、不定愁訴をもって外来受診、あるいは入院加療を受ける患者さんが増加しています。 小生が前に勤務していた病院のデータ(出現頻度)では外来患者で5%、入院患者で15%でした。つまり普通の病医院でも、一般患者さんに占める不定愁訴患者の割合は約一割(10人に1人!)だと考えられるのです。 しかし、日常診療の場においては、これら不定愁訴症候群の定義、診断、治療には未だ一定の基準(ガイドライン)がなく、また臨床的のみならず、心理的、社会的アプローチが不十分な面も多いのが実情です。

・併存症を見落とさぬよう!
 ストレスや疲労からだろうと簡単に考えていたら、色々な病気が隠れていることもあります。 「不定愁訴患者の67%(約2/3)に高血圧、胃十二指腸潰瘍、糖尿病、気管支喘息などの病気が認められた」という報告もあります。 心配性の癌ノイローゼだろうといい加減な診療をしていたら本当に癌が隠れていた!という話もよく聞くところです。 今の時代、これは正に医療訴訟に直行です。

・性格との関係
 ストレスや疲労で全員が不定愁訴症候群に陥るのではありません。 陥るか否かはストレスをどのように受けとめるのか、各自の性格が大きく関係しているのです。 性格テスト(YG)による検討では、性格上問題があるとされているBとEの方が、片寄りの少ないA、C、Dより不定愁訴症候群患者が多くて重症化しやすいという結果が得られました。 また、性格やストレスは相互に影響を与えるものであるため、最近これらが包括的に考えられるようになり、ある個人が与えられた環境に適応するために示す行動パターンが重視されるようになってきました。 例えば、A型行動パターン者は無意識にストレス状況をつくりだしたり、ストレスに遭遇するような特徴を有しているとされ、とくに日本人で管理職に目立つような仕事中心主義が生まれてくると考えられています。 もちろん、これらは血液型のAやBとは全く無関係です。

・薬とセルフコントロール
 では、治療はどうするのでしょうか? 何がストレスや疲労の原因になっているのか。仕事か家庭か。とにかく、ゆっくり話を聞いてあげるだけで(軽い人なら)かなり良くなります。 中程度以上で自律神経が狂ってしまっている状態ならば薬を服用して今の状態から脱却しないといけません。 しかし、こういう患者さんは今までのいきさつで医者や薬に不信感を持っている人が非常に多くて、 ちゃんと薬をのんでくれないから、根気よく説明して納得してもらう努力が必要です。 我々医者自身も欠点だらけの人間ですし、人生相談のカウンセラーでもありません。 ですから、いくら話を聞いて相談にのったといっても、「家庭をどうしろ」とか「仕事はこうしろ」とは言えませんし、現実的には自分で乗りきっていってもらうこと(セルフコントロール)が原則です。

 最後になりましたが、最近は心療内科や精神神経科などの専門医(名医?)も多くなりましたが、けっして特別なことではなくて、 医者ならば(特に内科の先生ならば)全員が不定愁訴症候群を診る良医であるべきだと確信しています。

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