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家族と医療

・一番大切なもの
 「あなたにとって、一番大切なものは?」というアンケート調査の第一位は、「家族」ということになっています。 これをみて、「ああ、家族が平和で豊かに暮らしている時代なのだ」と思ったら大間違いです。 健康を失って、はじめて健康の大切さを実感するのと同様に、今ことさら家族を意識するのは、 それが不安定で問題を抱えているからに他ならないのです。 技術革新が家庭生活に入り込み、その助けを借りれば一人でも悠々と生きていけます。 風呂、洗濯、炊事など、昔は大変な作業で、万事に家族の協力が不可欠でしたが、 今はスイッチを押すだけで、本当に簡単です。 またコンビニストアへ行けば24時間好きなものが手に入ります。 家族の協力なんて何も必要ありません。 一人でも生きていけるのに、なぜ家族が一緒に暮らすのか……こんなことを改めて考えなければならない時代なのです。

・家庭の教育と医療
 日本は、明治以降120年間、学校中心型教育で、ある意味では世界一を誇る高い教育レベルにたどりつきました。 しかし、家庭がその教育力を失ってしまったというマイナス面もありました。 子供の健康についても、身体検査の通知を見てから医者に連れて行く。熱の計り方も知らない。
また、学校給食の問題にしても、母親の口から出てくる言葉は、 「学校給食で偏食を治してもらわないと」「箸の持ち方も指導してもらわないと」そして最後にでてくる本音は、「学校給食の方が、安上がりで手間をはぶける」と。 なんと受け身のかかわり方しかしていないのでしょう。 一方、欧米先進国では、学校は勉強を教える所、子供の健康管理と躾(しつけ)は家庭の仕事と、 両者の役割分担はきちんと決まっているといわれています。 少なくとも、拒食症、登校拒否、五月病などは、逆に発展途上国の満足に食べたり、学校へ行ったりできない社会では絶対起こり得ない病気です。

・家族と「心の絆(きずな)」
 家族に大切なのは「心の絆」であるとよくいわれます。 それでは具体的にどうするのかと考えると、はたと途方にくれてしまう次第です。 ある本に「手間ひまかける作業の中に、付加価値(おまけ)として心がこめられる」とありました。 「母さんが夜なべをして編んでくれた手袋」をはめるとき、子供は頭の中の片隅で、 背中を丸めた母親の姿を思い浮かべているにちがいありません。 親の手作り弁当は、たとえ冷えていても、たとえ栄養的に不備でも、親の心がこもっており、 それが子供に伝わるといったことを全く理解できない人が増えたような気がして、残念でなりません。 技術革新とは、手間ひまを機械に任せること、そして、この技術文明社会と引きかえに、 現代人が心を失ってしまったともいえるでしょう。 ひとつ屋根の下に住んでいるからといって家族だと思ったら、とんでもない。 もはや、何の努力も演出もなくして、家族は家族でありうると期待できません。 また日々の共通体験があってこそ、以心伝心があるわけですが、 手間ひまのかからない技術文明社会を手放せない以上、現代の家族は、もっと言葉でコミュニケーションする努力が必要です。 「家の手伝いなんかしなくていいから勉強しなさい」、そして個室に閉じ籠って一人で時間を過ごしている。 今の日本の子供ほど、家の手伝いをしない国はないのではないでしょうか。 やがて、今の教育で育った子供が大人になり、そして老人になっていく……。

・在宅医療
 医療の進歩などにより長寿化していく中で、老人における虚弱、寝たきり状態の急増が社会問題となっています。 子供との同居世帯が減少し、老人の一人暮らしが増えていること、 さらに、親子の扶養意識の変化による家族機能の変化など、難しい問題をかかえています。 最近、「家族する」「ファミリーする」という言葉を耳にするようになりました。 家族が自然でなく、積極的に求め、かかわり、創出していくものだと、ようやく気づき始めたからに違いありません。

参考図書:「心の不思議学入門講座」小田 晋
投稿:ロータリーの友 1998 Vol.46 No.3 「家族は大切なものか」

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