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パパラギは繰り返す?

 『パパラギ』という本を読みました。南太平洋の西サモアに住む酋長ツイアビが旅行をして、ユーモアと皮肉を交えた鋭い文明批評をする話ですが、 「現代人が失ってしまったもの」について考えさせられる本です。

 私がまず思い出したのは、英国人ジャーナリスト、グラハム・ハンコック氏著の『神々の指紋』でした。この本は世界中で大ブームになり、日本でもベストセラーになりました。 著者のハンコック氏がこの衝撃的な内容を書くきっかけとなったのは一枚の世界地図でした。 16世紀に書かれたその古い地図には、驚いたことに南極大陸が、それも現在のように厚い氷に覆われる以前の海岸線が正確に描かれていたのでした。 南極大陸の発見は19世紀になってからであり、科学調査によって氷の下の地形や海岸線が確認されたのは、つい最近のことなのです。 ハンコック氏は、エジプト文化を調べている過程で、この地図の存在を知り、調査を開始しました。 南極大陸が氷で覆われるようになるのは約6000年前といわれています。 6000年前といえば、メソポタミアやエジプトなど今の歴史学では世界最古といわれている文明が誕生するよりもずっと前の時代です。 そして、最終的に彼は「紀元前1万年以上前に、南極大陸で高度な文明が栄えていた」という大胆な推理をするのです。 また、エジプトやマヤやインカなどの古代文明も、それ自身が生みだしたものではなく、それ以前の未知の進んだ文明【超古代文明】の遺産を引き継いだものにすぎないと主張するのです。

 さて、『パパラギ』の主人公である酋長ツイアビが住む西サモアは、南太平洋のいくつかの火山島や珊瑚礁の島々からなり、 18世紀にオランダ人に発見されたあと、欧米諸国の支配を受けていました。 面積は3000平方km(日本の中国地方より少し狭い)、人口は19万人、1962年にポリネシア最初の国家として独立しました。 もちろん、日本などと比べると、まだまだ未開の発展途上国です。 ところが、実はこの西サモアを含む広大な南太平洋の島々にも謎の超古代文明が存在していたといわれているのです。 地球の総面積の約3分の1にあたるといわれる広大な太平洋。 そこには約3万もの島々が浮かび、ニューギニアとフィジーを結ぶ海域をメラネシア、パラオ、マーシャル、ナウルなどを結ぶ海域をミクロネシア、サモア以東の海域をポリネシアと3つに大別されています。 はたして、ここに、はるか大昔(1万2千年前)に高度な文明を誇っていたムー大陸があった!  その東の端が巨石人像モアイで有名なイースター島であり、西の端が最近沖縄海底遺跡で話題になった琉球古陸であったというわけです。 そうすると、西サモアはムー大陸の中心地であり、その当時は今の欧米などのように進歩した都市であったかもわからないのです。 この荒唐無稽な仮説が正しいかどうかは今後の検証に委ねられますが、ムー大陸やアトランティスなどに代表される沈没大陸、失われた文明の謎には本当にロマンがあるものです。

 私たちの現代文明は大変な繁栄を迎え、テクノロジーは高度に発達しています。 しかし、そこにおごりや油断はないでしょうか。 ストレス社会、家庭崩壊、モラルの低下など現代社会の歪みが叫ばれて久しくなります。 少なくとも今の日本人は、きわめて平和で豊かな生活レベルにあるにもかかわらず、半病人あるいは半健康状態と呼ばれる人々が増えています。 技術文明が家庭に入り込み、家族の協同作業なしでも一人で悠々と生きていける時代になりました。 「母親の手作りの弁当や料理や衣服がどんどん無くなっていってしまう」という新聞記事があり、「心を込め手間ひまをかけた協同作業の中にこそ、家族の心の絆が生まれるのだ」と結んでありました。

 もしも、超古代文明が存在し、大昔から戦争や疫病や天変地異などによって世界が大きな周期で繁栄と破滅と再創造を繰り返してきたのならば、まさにこの『パパラギ』は「現代文明の今を生きる私たちへの教訓を込めて書かれたメッセージの書」と言えるでしょう。 もはや、この便利で手間ひまのかからない技術文明社会を手放せない以上、これから私たちは何をするべきなのでしょうか?…。 人類の歴史は繰り返し、それぞれの進歩した文明の時代で「こころ」を病みながら、同じように『パパラギ』も繰り返されてきたのかもしれません。

参考図書:「古代遺跡タイムトラベル」講談社 「世界超古代文明の謎」日本文芸社
投稿:ロータリーの友 2000 Vol.48 No.4 「文明の栄枯盛衰」

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